日本家屋の内装

特別寄稿〜小名木善行〜

日本家屋はエコ住宅

「昔の日本では、木と人は仲良しだったんだ・・・」 どこかで聞いたような言葉であろうかと思います。けれど、本当です。昔の古い民家に行きますと、家の裏手に「破風林」や「塚森」などがあったりします。 たしかに、風よけという意味もあったのですけれど、それだけではありません。実はそこに究極のエコがあります。

古い日本の住宅には、家屋を横断する梁(はり)などに、巨大な一本の樹が使われていますいま、同じ構造の家を新築しようとしたら、材料費だけで1件1億円くらいかかってしまいそうです。それだけ良い木を使って建てられています。

だからこういった家を建てる人は豊かだったのか、というと、決して経済的に豊かだったとばかりはいえません。ただ、いまより、ちょっとだけ心が豊かだったかもしれません。というのは、家を新築するにしても、増改築するにしても、必ず木材を必要とします。あたりまえのことですが、その分、必要なだけの木を伐らなければなりません。木は、伐ればなくなります。そこで昔の民家では、家を建てるときは、使っただけの木を、家の裏に植樹したのです。

森の写真

最初は小さな苗木です。けれどその小さな苗木が、100年、200年と建つと、裏庭で立派な大きな木に育ちます。そしたらその木を使って、また家を建て替えていたのです。

逆にいえば、建てた家は、裏庭の木が育つまで100年200年と持つ、それだけの耐久性のある家として築かれました。そのために家の柱や梁(はり)には、太い木材が用いられました。そして太い柱や梁(はり)は、多少の火災があっても、古くなっても、表面をすこし削るだけで、またたくまに新品によみがえるったのです。

壁に使っている塗り壁は、竹を編んで、その上に土を塗り固めました。この技法は防寒、防暑にきわめて効果的です。しかも火災発生時には、土が崩れて消火の役を果たします。

おもしろいのは地震対策で、なんと古い民家はいま流行の「免震構造」なのです。「免震構造」というのは、地震がきたときに、地震と一緒に揺れることで地震のエネルギーを吸収してしまう構造です。これをどのように実現しているかというと、まず家そのものを石の土台の上に築きました。家は石に乗っているだけですから、地震がきても、その揺れのエネルギーは建物が石の上をすべるだけで逃してしまいます。さらに家が木でできた軸の組み合わせでできているため、 地震の揺れとともに木と木の組み合わせ部分が動いて、ここでもまた地震のエネルギーを吸収してします。

たとえ家が地震によって、石の台座からズレても大丈夫です。 縄で引っ張り上げれば、もとに戻ります。木造軸組の軸がずれて、建物が歪んでも大丈夫です。縄で引っ張って留めれば、またもとの姿に戻るからです。

つまり土壁であることによって耐火構造となり、太い木でできた木造軸組工法であることによって免震構造になり、建物に歪みが出てもすぐに直せるし、火災のボヤが発生して木材が焦げても、削れば新品になってしまう。だから建物が200年建っても壊れない。ものすごい耐久性をもっているわけです。

木の写真

それでも、150年〜200年と経てば、家は老朽化します。けれどその頃には、裏庭に植えた木が大きく育っているから、その木を使って、また家を新築できるのです。

一方、そこまで考えた家なら、裏庭に木を植えるわけですし、何世代も同居しますから、当然のことながら、敷地は広大になり、家も大きな家になります。その大きな家に、家族がみんなで住みました。現存するある古民家では、一時期、祖父母から玄孫まで合計105人が、その一軒の家で生活していた家もあります。それだけの人が住んで生活できるだけの空間が、家にちゃんと備わっていたわけです

いまの建売り住宅などでは、せいぜい耐久年数は25〜35年ということになっていますが、実際には30年も経てば、家はもうボロボロです。しかも家そのものが小さいから、結局は「一代限り」の家にしかなっていません。しかも敷地は小さく、家の庭に、家を建て替えるときに必要な木材を植えれるようなスペースもありません。そして家の修繕や、建て替えるときに必要な資材は、いったいどうしているのでしょう